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ブロックチェーンの選び方 ― 日本初Flowを利用したサービス開発の裏側

2022年3月2日に開催したエンジニア向け勉強会NFTプラットフォームの作り方 ー FanTopの裏側。多くの方にご参加いただいたのですが、残念ながら都合が合わなかったり、後でイベントを知ったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そうした方々向けに、テキスト起こし版を作成しました。スライド資料と合わせてご覧ください。

日本初Flowを利用したサービス開発の裏側「ブロックチェーンの選び方」

2021年4月、メディアドゥはNFT事業に、ブロックチェーンの一種である「Flow」の活用を決断しました。2021年7月には、日本企業として初めてFlowブロックチェーンにスマートコントラクトというNFTを運用するプログラムをデプロイしました。その後、2021年10月12日にNFTマーケットプレイス「FanTop」を正式リリースしています。今回は、何故Flowを選んだのか、ブロックチェーンがビジネスに与える影響について、Ethereumなど他ブロックチェーンと比較しながら解説します。

登壇者紹介

德地 佑悟

2019年よりメタップス社でEthereumを利用したNFTマーケットプレイスの開発に従事。2021年3月よりメディアドゥに参画し、FanTopのプロジェクトを立ち上げた。現在はNFT事業の事業責任者を務める。

自己紹介

FanTopの事業責任者をしています德地と言います。メディアドゥに入社したのは2021年3月1日で、前職はメタップスにてmiimeというNFT取引サービスを開発していました。入社した当時はNFTがそれほど注目されていなくて、むしろNFTはもう駄目といった悲観的な状態ですらありました。なので、今は猫も杓子もNFTみたいな状態で、こんなに状況が変わるものなのかと驚いています。

経歴としてはゲーム会社のバンダイナムコエンターテインメントで、海外営業や海外製品開発に7年ほど携わっていました。その後、インドで一発当てようと寿司屋を経営していた時期もありましたが、機会があってNFTにたどりついたといった感じです。個人的には、最先端でまだ市場ができていないような領域のプロダクトを作りたいと思っていて、3年前からNFTに関するプロダクト開発に関わっています。

FanTopの紹介

まず最初に、2021年10月にリリースしましたFanTopについて説明します。右側がFanTopのWebサイトで、左側がアプリのイメージになります。

FanTopはFlowというブロックチェーンをベースにしています。そして、FanTopは特にNFTのコアなファンではなく、より大衆に近い方々をターゲットとしていて、日本円で決済でき、二次流通も日本円で行えるのが特徴です。NFTというと、若干どこに価値があるのか分かりづらいプロダクトかと思います。そこで手触り感というか、デジタルだけどコレクションとしても成立するよねという体感を持ってもらうための工夫をしています。

Web版FanTopではNFTをコレクターとして楽しんで購入できるボックス機能、また二次流通としてユーザー間で売買する機能があります。またアプリでは、3D表現する機能、ARでNFTを飾るなどNFTを楽しむ機能があります。

Webとアプリ、二つの仕組みが合わさって、FanTopを構成しています。

NFTのボックスについて「北斗の拳(コアミックス)」のNFTを例に紹介します。このNFTは全部で27種類あるのですが、ボックスはその内の5枚が当たる仕組みです。このボックスを日本円かつクレジットカードで購入できる点が、他社のNFTサービスと比較して珍しい部分だと自負しています。

さらにアプリはWebで見えているものに加えて、限定ビデオなどアプリでしか見られないデータを設定できます。また、3D表現が可能なのでAR技術を使って3D空間にオブジェクトを配置できます。これは自分の仮想部屋を飾るようなイメージです。これらの機能は全てリリース済みなので、アプリをダウンロードしてサンプルのNFTをご購入いただくことで体験可能です。

FanTopで実現したいことと、その工夫

私たちがFanTopで実現したいことはシンプルで、ブロックチェーンに詳しくない人でも簡単にNFTに触れられるような機会を作り、NFTを保有していただきたいということです。だからこそWeb版のFanTopでクレジットカード決済を入れたり、日本円で購入できるようにしたり、アプリで3D表現を導入するといった工夫をしています。

これを実現するために、技術的にはフルオンチェーンでNFTを管理しています。フルオンチェーンとは、NFTの保有権が常にブロックチェーンへと反映されているということです。これは意外にも、実現できているサービスが多くありません。長年NFTに関わってきた身として、ちゃんとブロックチェーンにNFTの保有権に関する情報を書き込んでおくことがNFTとしての最低条件と言いますか、重要なポイントだと思っています。

それを実現する、つまりフルオンチェーンでNFTを管理するためにはブロックチェーンに書き込みをする必要があります。その時、必ず仮想通貨で書き込み費用(以下「ガス代」と呼びます)を支払わなければなりませんが、利用するユーザーが皆Ethereumや何らかの仮想通貨を持っている訳ではない点が大きな課題です。

例えば、先日発売した「心霊探偵八雲 INITIAL FILE 魂の素数(講談社)」にはFanTopで入手可能なNFTデジタル特典が付いています。このNFTは、Amazonギフトコードのようなものが書籍に入っていて、そのコードをFanTopに入力すると、即座にブロックチェーン上にNFTが書き出される仕組みになります。これを実現するためには、ユーザーの方が仮想通貨でガス代を支払わないといけませんが、仮想通貨に知見が無い方々にとって理解が難しいことでしょう。そこで、メディアドゥがガス代を負担する仕組みを作ることにしたのです。

このためブロックチェーンを選定する上で、メディアドゥが負担できる価格帯のガス代に収まることが、オンチェーンで保有権管理をしていく上で重要なポイントでした。当社がオンチェーンでの保有権管理にこだわった理由は、ブロックチェーン上にNFTを書き込むことで、NFTの発行者であっても、そのNFTがユーザーのものになれば、恣意的にその情報を書き換えることはできないという点にあります(実際にそういったことはまずあり得ません)

ファンアイテムやユーザのコレクションを販売するシステムを考える上で、ユーザーの気持ちは大事なものです。パブリックなブロックチェーンに書き込まれていないと、私はとても不安な気持ちになると思います。

FanTopのこだわり

そのため、FanTopではフルオンチェーンにこだわっていました。また、私たちのシステムはFlowのNFTスタンダードに則っているので、将来的には他のマーケットプレイスにもNFTを移すことが可能です。これは将来的なブロックチェーンの価値向上に寄与すると考えています。プロダクト開発責任者としては、NFTの相互運用性や耐改ざん性が将来的な価値向上に繋がるのは確実だと考えているので、オンチェーンでの保有権管理も大事なことでした。

ブロックチェーンを利用するには、これまで述べてきた通り仮想通貨が必要だったり、処理が遅かったりといったハードルがあります。そのため、今はオフチェーンだけれども、将来的にオンチェーンに書き出すような仕組みを用意するなど、段階的にシフトする方法を選択している企業も多いようです。私たちがフルオンチェーンにこだわってきたのは先に述べた通りですが、最初からオンチェーンを選んだのは、保有権管理はサービスのコアな部分であることが大きな理由です。

FanTopを改善する際には、現在のものをベースにアップデートを行います。これを繰り返していくと、コアな部分を切り替えるのはだんだんと難しくなっていきます。そうすると、オフチェーンからオンチェーンに移すという大きな改善は、アップデートと言うよりリプレイスに近いものになるであろうというのが私の経験則です。であれば、最初から対応しておく方が良いでしょうから、初期段階からフルオンチェーンでリリースすることを決めたのでした。

ブロックチェーンの選定

ブロックチェーンについては2021年3月に3つの選択肢から検討しました。現在であれば他にも選択肢があると思いますが、当時はEthereumNBA Top Shotで採用されているFlow、あとはpolygonでした。polygonはユーザー数はそれほど多くありませんでしたが、EthereumとEVM(Ethereum仮想マシン)交換できるので選択肢として入れていました。当時、内部資料として作ったのが以下の表です。

一番上が実績で、どれくらいのユーザーが利用しているかを示しており、Ethereumを採用したプロジェクトが一番多いです。FlowについてはNBA Top Shotくらいしかありませんが、当時は単月のNFT取引高はEthereumよりFlowの方が高い状態でした。そういう意味ではFlowも実績は劣っていません。polygonは当時、実績があまりなかったのでフルベットするにはリスクがありました。ガス代の低さで言えば、EthereumよりもFlowやpolygonが良さそうでした。Flowの1トランザクションあたりのガス代は当時のレートで0.02円で、現在はもう少し低くなっています。

また、一般ユーザーへの普及度という点では、Ethereumは決済にも使われている仮想通貨なので良さそうでした。FlowはNBA Top Shotに200万ユーザーがいたので、ここも十分だと言えます。この数字はEthereum上でNFTを持っているユーザー数と比べても遜色なかったので、これらを加味して私たちはFlowを選択しました。

Flowの選択後、スクラッチを超速で開発して1年でFlowチェーンで動くマーケットプレイス、そしてアプリを作り上げました。

質疑応答

FanTopのウォレットはBloctoとのことですが、MetaMask非対応にしたのは理由があるのでしょうか?

MetaMaskは使いたいのですが、Ethereum系のブロックチェーンでしか使えません。そのためFlowで利用できるBloctoを選択しました。ただ、Bloctoだけをウォレットにしたくはないので、新しいウォレットが出てきたら対応していきたいと考えています。

FanTopで購入可能なNFTはFanTopのデジタルアセットに限定されますか?

現段階ではそうです。これはFanTopでは、誰でもNFTを発行できる仕組みではなく、我々が厳選したIPホルダーさんのコンテンツをお預かりして、それをNFT化する方針だからです。その意味では、我々のマーケットは閉じた形です。

ただ、Flowの世界ではそこまで大きなマーケットプレイスが出ていないので、まずスピード重視で独自システムとしています。今後、この部分についてもどんどん広げていきたいと考えています。先日、NBA Top Shotが外部マーケットに出す機能を一部のNFTで実現しましたので、今後機会があれば順次対応していきたいです。

FanTopで購入したものを他の場所で転売できますか?

はい、日本円でできます。仮想通貨での転売機能は簡単に付けられますが、現在は付けていません。決済通貨を複数用意すると使いづらいUIになりますので、現在は日本円のみとしています。

保有しているFlowのキーペアをFanTopに持ち込んで利用できますか?

今のところBloctoしか使えません。ただ、FlowにはNode.jsで動くモジュールがあり、ウォレット自体はそのスタンダードに合わせた形にしておくと実装が楽な仕組みになっています。今はBloctoしかありませんが、準拠したウォレットが増えれば順次対応していきたいと考えています。

オフチェーンのNFTはどんな意味がありますか?

私自身は意味はないと思っています。ただ、多くのユーザーがいるサービスが外部と接続するということは、そのユーザーを外部へ送出するのと同じことになりそうです。その意味では、自社のエコシステム内にユーザーを閉じ込めたいならオフチェーンも良いかと思います。

NFTが流行っているからプロダクトを出したいけれど、あくまでも自社のエコシステム内でアイテムをトレードさせる状態にしたいのであれば、ありかも知れません。

FanTopで購入してFlow上に保有権が記録されたNFTを、FanTopのシステムを介さずにFlow上で他人に譲渡できますか?

できます。ただし、私たちの保証外になります。今の段階では、普通に譲渡されて終わる気がします。システムとしては想定していないのですが、ブロックチェーンの保有者情報は同期していますので、保有者が移って終わるだけだと思います。

これは実は難しいポイントで、ブロックチェーンの仕組みは私たちの範疇外になります。規約としてサポートするのは難しい部分です。私たちのサービスはブロックチェーンの仕組みに則ってサービスを作っていますが、未来永劫私たちが保証できるかというとそうではありません。

コンテンツはオフチェーンで管理されていますか?

今はオフチェーンです。ブロックチェーン上でコンテンツ本体を管理する方法としてはIPFSが知られています。これは保存のコストが高くて、5〜6ドル/MBくらいします。たとえば動画が200MBくらいある場合、それを保存するのに相当なコストが必要です。そのため、ブロックチェーンのマナーではIPFSという技術を使って、そこにハッシュを記録します。それによって少なくとも改ざんできないような仕組みをとっています。私たちはIPFSと同じ仕組みでハッシュ値を計算して、それをブロックチェーンに書き込んでいます。なので皆さんがブロックチェーンにアクセスして、ハッシュ値を見れば、私たちが元々販売していた画像と差し替えられていないのを検証できます。

連載: NFTプラットフォームの作り方 ― FanTopの裏側
  1. ブロックチェーンの選び方 ― 日本初Flowを利用したサービス開発の裏側
  2. NFTマーケットプレイスのアーキテクチャ設計
  3. FlowブロックチェーンとCadence言語の実用 ― FanTopの裏側
  4. ブロックチェーン上のデータを管理する仕組み