Tech Do | メディアドゥの技術ブログ 

株式会社メディアドゥのエンジニアによるブログです。

電子書籍・漫画はどのように読者へ届くのか?これからどうなるのか? ー メディアドゥVPoE 川田 寛

漫画・電子書籍をスマホで読むことが普通になった時代。その勢いは加速しているという実感があるかと思います。

2012年に日本へKindleがやってきた時、これが読書の定番になると思えたでしょうか。正直なところ、私はデジタルの本を読む自分の姿をまったくイメージできませんでした。この10年で、本と人類の関わりは大きく変わったように思えます。

ネット上で漫画・電子書籍が読めるサービスのことを「電子書店」といいます。そこに並ぶ書籍は、ご存知の通り「出版社」からやってきます。

この2つの役割の間には、一体どんなことが起きているのでしょうか?

本記事では、そんな電子書籍や出版業界の現在と未来について、メディアドゥのVPoEの立場から、ややエンジニア目線でご紹介します。

書籍をデジタル化するには?

出版社の数は膨大です。

国内には2,900を超える出版社が存在しています*1。それぞれの出版社が、バラバラのフォーマットで電子書籍を提供することは現実的ではありません。電子書店が各出版社ごとに個別で対応していては、その作業負荷に耐えられなくなってしまいます。

そこで、出版業界はフォーマットの「共通化」を進めることにしました。

テクノロジーの歴史は、共通化の歴史といっても過言ではありません。プログラミング言語、OS、インターネット、さまざまなことを共通化したことで、人々が本当に解決したいことに集中できるようにしました。ソフトウェアは約70年も続く共通化の積み重ねを繰り返し、世の中をデジタル化させてきました。

出版業界にも、そのデジタル化の流れが巡ってきたということでしょう。

現在、電子書籍の共通フォーマットとして有名なのが2011年に策定されたEPUB 3です。その発展には世界中の団体が関わっており、日本では慶應義塾大学SFC研究所をはじめとして、主要な出版社やそれを取り巻く企業がさまざまな関わり方で貢献しています。EPUB 3は「W3C」というWebの標準化団体によって策定されています。HTMLやCSSといったブラウザで扱うWebの既存技術が使われており、その技術から書籍に求められる多彩な表現を取り込んでいます。

例えば、スクリーンサイズにあわせてコンテンツのレイアウトを変化させる「リフロー」。この手法はブラウザが古くから持つ、既に完成された信頼性の高い”枯れた技術”です。これを書籍でも扱えるようになれば、スマートフォンやタブレットなどの多様なデバイスが利用されている現代において、最適な読書体験を実現できるでしょう。

時代とともに、出版社が提供するコンテンツや、電子書店が提供するサービスの姿も変化し続けています。試し読みできるようにしたり、検索を柔軟に行えるようにするなど、読者が求める体験などの変化に応じて、サービスに求められることも同様に進化を続けています。

その中から、次に何を共通化させるべきなのか。テクノロジーが解決すべき課題は、未だ数多く残されています。

電子書籍を出版社から電子書店へ届けるには?

電子書店の数も膨大です。

各出版社が、すべての電子書店と個別に契約交渉やオペレーション作業などを毎回対応するとなると、双方に膨大な手続きが発生することになるでしょう。

本来であれば、出版社は作品を生み出すことに集中し、電子書店は作品を読者へ届けることに集中したいのですが、この手続きは現場に多くの負担を強います。規模の小さな出版社や電子書店であれば、この負担に耐えきれず事業の継続さえも困難になります。

テクノロジーによる共通化で、この問題を解決する役割を出版業界内では「電子書籍取次(でんししょせきとりつぎ)」と呼んでいます。電子書籍取次システムによって業界全体の手続きを共通化させることで、出版社と電子書店の双方の負担を軽減させます。

例えば、IT産業では欠かせない存在になっているクラウドコンピューティングですが、その要因には「規模の経済」という特性が絡んでいます。各企業が独自にサーバーを運用するより、一箇所に集約して共通化させた方が、業界全体で運用されるサーバーの総数もエンジニアの総数も少なくなり経済的です。サービスを運用する事業者も、サーバーを運用する手間から解放されるため、集中すべき活動にきっちりと集中できるようになります。

このような、規模の経済によるメリットを出版業界に供給するのが電子書籍取次です。

電子書籍の流通手続きを、業界全体で一箇所に集約し共通化させる。業務を改善してリソースを合理化する。各企業の手続きや配信にかかるコストを最適化する。そうすることで、出版社が作品を生み出すことに集中し、電子書店が読者へ届けることに集中できる状態を作り出せます。

書籍のデジタル化と流通手続きの共通化。これにより、たくさん生み出される作品を幅広い読者へと、インターネットを通じて届ける仕組みが整いました。

こうした中、デジタル化したことで実現できる新しい価値を生み出す活動にも、電子書籍取次は取り組んでいます。

デジタルによって新たに実現できること

デジタルだからこそ届けられるコンテンツがあります。

都市部と地方部の情報格差、これを「デジタル・ディバイド」といいますが、この問題の解決が電子書籍を取り巻くエコシステムで起きています。

私の出身地は鹿児島県の徳之島という南の小さな島です。物流のコストは高く、書店も全然ありません。しかし、若者はみんなネットで漫画を読み、最新話の話題で盛り上がっています。都市部と同じタイミングで新しいコンテンツに触れることができています。

図書館の事例にも触れてみましょう。人口が少なかったり、住民の移動が不便な地域であれば、図書館の維持が難しいこともあります。しかし、ネット上に「電子図書館」を作れば、人々は都市部と同様に、いつでもどこでもサービスを利用することができます。人口減少が進む地方の自治体を助けることができるのです。

メディアドゥが提供する電子図書館サービス「OverDrive Japan」

書籍がデジタル化されたことで届けられた価値もあります。

高齢者・障碍者等に配慮し、すべての人々がコンテンツへアクセスできるための対応を「アクセシビリティ」といいますが、この流れは電子書籍を取り巻くエコシステムでも当然起きています。

まだ完全とは言えませんが、Webの技術にもアクセシビリティが仕様として含まれています。その技術を取り込んだ電子書籍、アクセシビリティの機能に対応したソフトウェアであれば、コンテンツの読み上げが行え、耳で聴いて本を楽しめるでしょう。電子書籍になったことで、紙だった時代には本にアクセスすることが難しかった読者へ、従来よりも低いコストで届けられるということです。

作家から読者へと電子書籍が届くまでの間には、作家から読者へと電子書籍が届くまでの間には、さまざまなオペレーション等が存在するため、テクノロジーの力によってそれらを効率化していくことが、電子書籍取次の役割になっています。

デジタルによって再発見されたこと

ネットが拡大する中、既存の産業は大打撃を受けています。

出版業界も例外ではなく、日本においてはここ20年の間に全国の本屋さんの多くが閉店しました。その要因としてインターネットの存在は否定できないでしょう。しかし、とある大手のネット少年漫画雑誌を手掛ける編集者は私にこう語ります。

「書店で紙の単行本を売ることに価値がある」

出版社は全国の書店をとても尊敬しています。書店のレジカウンターならば、ネットの決済手段を持てない子どもたちであっても漫画が買える。紙でしか得られない体験を、作品の感じ方を、届けることができると。

書店で目に入る情報量と、スマホの小さな画面の情報量には、圧倒的な差があります。書店というリアルの場だからこそ生み出せる、伝えられる作品の魅力というのがあり、メディアとしてのパワーがあります。

テクノロジーの力を使えば、紙の書籍の魅力を引き上げたり、書店の売り場を盛り上げたり、紙も電子も両方、これまでにない読書体験や価値を創造することができるはずです。

リアルの空間とデジタルの融合は、どの業界でも見逃せないトピックになってます。

政府が提唱するSociety 5.0という、自動運転システム、遠隔医療、キャッシュレス、VRなど、ネットを通じた人の介在のあり方が模索されており、しばらくこの流れは続くでしょう。ゲームの有料アイテムを購入することが当たり前となった今、ブロックチェーンやNFTといったデジタルの資産を扱う技術にも期待が寄せられています。

出版業界においても、これらのテーマは見逃せないでしょう。書店や紙の本に、これから大きな変化が起きようとしています。

電子書籍取次「メディアドゥ」として

私たちメディアドゥは、150店以上の電子書店と、電子書籍を提供する出版社の99%以上に当たる2,200社以上とお取り引きする、国内最大の流通シェアを持つ電子書籍取次です。本記事でも取り上げた電子出版業界の大きな流れに対してもチャレンジをしています。

EPUB 3への貢献のため、W3Cへの加盟を進めたり。取次業務のさらなる合理化のため、新しい電子書籍取次システムを開発し、JavaからGo・Next.jsへと技術刷新したり。また、紙の出版取次大手であるトーハンと資本業務提携を実施し、ブロックチェーン・NFTによる取り組みをはじめたり。

そのすべての裏側で、テクノロジーが重要な役割を担っています。

川田はメディアドゥのVP of Engineeringとして、テクノロジーの力で、「ひとつでも多くのコンテンツを、ひとりでも多くの人へ」という、メディアドゥのビジョンの実現のために活動します。テックカンパニーとして成長していけるよう、エンジニアリング組織の改善に取り組んでいきます。

引き続きこのブログでも、メディアドゥが扱う技術やエンジニアを紹介していく予定です。ぜひご覧ください。

インターネットとテクノロジーの力を活用することで、日本のコンテンツを世界ナンバーワンに押し上げることができると、私は心の底から信じています。

*1:出典:「出版物販売額の実態」2021年版より