Tech Do | メディアドゥの技術ブログ 

株式会社メディアドゥのエンジニアによるブログです。

出版のエンジニア組織の未来―いかなる課題を乗り越え進化するか

メディアドゥは「国内最大手の電子書籍取次」ではありますが、それは一つの側面でしかありません。デジタルコンテンツを売買・収集・鑑賞・共有できるNFTマーケットプレイス「FanTop」やインプリントサービス、海外向けサービスあるいは縦スクロールコミックの展開など、果敢に新たなビジネス領域へ攻め入る姿勢を見せています。

「『やるべきこと』は見えているけれども、実際に『どうやるか』を解決できるエンジニアが必要です」

そう話すのは、メディアドゥの出版ソリューション事業本部 技術統括部 Fellowの沓名 雅司(くつな まさし)。ERPパッケージベンダーから2018年に転身し、基幹業務の一つである電子書籍の販売・配信に関するシステムのリニューアルにおいてテックリードとして参加。アーキテクチャのチェックや負荷テストの検討・実施などを担いました。

それ以降は主に新規案件を担当。ブロックチェーン技術を事業で生かすための技術選定やPoCの実行などに携わりました。それらの取り組みの中から生まれたのが、前述のNFTマーケットプレイスのFanTopです。

現在は新規ビジネスの技術責任者を務める沓名に、メディアドゥの技術組織がより発展していくために必要なもの、そして今の組織で仕事をする魅力を聞きました。

元SIer、40代のタイミングで将来設計を見直す

──メディアドゥに入社する前職までは、どういった仕事をされていましたか?

沓名:もともとはSIer業界にいました。前職はワークスアプリケーションズで、プロダクトの技術基盤のマネージャとして技術方針の決定や調査、設計・導入などを担当しておりました。約1年半シンガポールに赴任し、海外メンバーを中心に40名ほどのマネジメントを務めました。

──責任あるポジションだと感じますが、そこから転身された理由は?

沓名:きっかけは、40代を手前に、働き方や将来設計を見直したいと思ったことです。これまでに身につけてきた経験をもとに、自社サービスをしっかりと成長させていきたいと考えたことがきっかけでした。

転職活動を始めたタイミングではメディアドゥの名前は知らず、きっかけはリファラルで声をかけて頂いてからでした。調べていくと、メディアドゥは電子書籍流通において国内No.1のシェアを持つという強いアドバンテージがあり、さらには電子図書館事業なども含めてコンテンツを幅広く取り扱う事業を展開している。

これほど魅力的なポジションを持つメディアドゥは、今後もより良い提案やソリューションさえしっかりと打ち出していけば、出版業界にしっかりと受け入れていただき、貢献しやすい環境なのではないかとイメージすることができました。

4つの「戦略投資事業」が次なるメディアドゥをつくる

──入社後はテックリードや新規ビジネスの技術責任者を務められてきました。国内No.1の流通シェアを持つという強い事業もある。それらの環境がありながら、メディアドゥがより成長するためには、どういった技術面の課題を解決すべきだと考えますか?

沓名:まずは技術組織でいうと合計150名体制で、大きく2つに分かれています。一つは「技術本部」で、メディアドゥの売上の9割以上を支える電子書籍流通、それに関連するサービスの開発・保守を主に見ています。まさにわれわれの生命線を支える技術チームです。

もう一つは私が見ている新規ビジネスで、特に「ファンマーケティング事業」では、toCサービスを中心とした新しいサービスの開発を主に担当しています。

メディアドゥは2022年から新しい中期経営計画に基づき、次なるステップを目指していくスタート地点にいます。数字で言えば、現在1,000億円ある売上に500億円をプラスし、EBITDAとしても100億円という成長を目指しています。

これを実現するために、中期経営計画においても「戦略投資事業」として、インプリント事業、出版ソリューション事業、国際事業、ファンマーケティング事業という大きく4つの新規ビジネスの推進を掲げています。

ただ、これら注力事業に関して技術部隊が十分かといえば、盤石とはいえません。主力の既存ビジネスも、新規事業にも投資していかなければならないなかで、特に後者に対する技術組織が慢性的に不足しがちです。この課題へのアプローチが、メディアドゥとして大きな成長を促し、ビジネスのスピードを上げるためにも解決すべきだといえます。

つまり、「やるべきこと」は見えているけれども、実際に「どうやるか」を解決できるエンジニアが更に必要とされているフェーズにあるのです。

──まさに現場で実力を発揮する技術者も含めて、どういった人材に注目してもらいたいですか?

沓名:まずは、事業の課題を見定め、解決策を導き出せるエンジニアですね。経営や事業の課題といったレイヤーから全体を見て、事業側をフォローできるタレントをもっと増やしていきたいです。そして、国際案件に取り組んでいくためにも、海外企業とうまくコミュニケーションをして、シナジーが生める方にも、ぜひ参画いただきたいです。

メディアドゥでは、海外も含めた出版のDXを図る企業の子会社化も進めており、今後もグループ全体としてDXに貢献しうる領域の強化を目指しています。これらの海外企業と円滑に取り組むために、コミュニケーションの課題は大きいです。英語で会話ができ、活発なコミュニケーションを行えるベースがあってこそシナジーを生むアイデアが具体化していくと考えます。

語学の観点に限らず、海外のメンバーとコミュニケーションできる組織を短期的にも立ち上げていき、海外案件もスピード感を持って対応できる形にしなければいけません。あるいは、そのような働き方や職務に関心の高い方なら、より面白く感じられるとは思います。

柔軟性とスピード感を兼ね備える技術組織

──メディアドゥの技術組織としての特徴といえば、何が挙げられるでしょうか?

沓名:メディアドゥには3つからなる「エンジニアバリュー」があります。「当事者意識」「技術は手段」「ユーザー目線×エンジニア目線」です。

よりユーザや出版業界全体の課題に寄り添って問題解決を行いたい、あるいは技術力を活かしてソリューションを提案していきたいと考えている方はやり甲斐を感じていただける環境になっているかと思います。

技術的にも、Go言語の採用やReact、AWSを中心としたクラウドネイティブなアーキテクチャの設計などを積極的に取り入れながら、生産性改善のための活動を行なっていたり、様々な挑戦を実施しています。

加えて、ブロックチェーンやNFTといったWeb3まわりの技術は、研究開発や実用化も進めています。1社でここまで幅広く挑戦できるところは、なかなか無いようにも感じます。

また「技術は手段」と言われる通り、手段に傾倒してはいけないとも考えています。一方で、技術から学ぶことも多くありますので、バランスに注意しながら新規技術の検証・導入に挑戦しています。

──上場企業でありながら、柔軟性とスピード感を両立させるのは特色といえそうですね。

沓名:弊社は東証プライム上場企業ではありますが、ベンチャーとしてのスピード感も持ち合わせていると自負しています。たとえば、NFTも含めたブロックチェーン技術の導入や推進はスピード感を重視して開発を進めていますし、既存ビジネスに関しても、より効率的な仕組みの実現や保守性を高めるための取り組みを続けています。

エンジニア自身の指向性を反映させやすいのもポイントといっていいでしょう。「安定的なプロジェクトの中でサービスを管理・改善していきたい」という意志があれば、そういったチャレンジもできる。一方で、プロダクトに意志を反映していきたい、機能も含めて世の中に出していきたいのであれば、スピード感を持ってチャレンジもできる。

自身の状況に合わせたチャレンジの選択がしやすい環境だと感じています。多様な経験が積めるこの環境は、自身のキャリアパスを形成する観点からも、うまく活用いただけるのではないでしょうか。

──会社規模などが大きくなってもベンチャーらしいスピード感を保つために、どのような点に気を配っていますか?

沓名:組織規模の拡大と共にアジリティの低下は避けられませんし、確かに守るべきものも増え、会社としての責任も大きくなります。一方で、特にtoCの場合は、世の中にいち早く出した上で、皆さんに体験いただくところが重要でもある。品質条件を考え、守るべきところは守った上で、スピード感を落とさないようにしています。

具体的には、目的に応じて開発部隊を分けています。安定的なプロダクトを持つ開発チームもあれば、安定性よりまずはスピード感を重視するチームもある。価値観が異なっていても、コンフリクトが起こらないように編成しています。

──それこそ会社としては一つだけれども、複数の小さな会社が寄り集まっているようなイメージでしょうか。

沓名:そうですね。体質的には新規事業側と既存事業側と大きく2つに分かれますが、新規事業の中でも、各事業に必要な考え方は微妙に異なります。チームもそこで専門的に分け、目的意識を共有していくことが重要だと捉えています。

出版社が、出版業務により集中できるように

──電子書籍は日本だけでなく世界中で広まっていますから、国際事業にも力が入るのも納得です。最近ではどういった企業の買収や提携が進んでいますか?

沓名:最近ですと、一つは北米を中心とする「Firebrandグループ」で、出版業界のDXを推進している企業が挙げられます。書籍の制作から販売展開までのワークフローをサポートするTitle Managementや書籍のマーケティングを強力にサポートするNetGalleyなど様々なサービスを保有し、主要な海外出版社をはじめ、幅広い出版関係者の業務を支えています。

そういった仕組みをうまく活用すれば、国内出版社が海外で販売展開する際にも統合していくことで書籍を海外でもより効率的に販売展開できると思います。

また、「Supadü」という出版社専用の書籍販売サイトをスピーディに立ち上げる仕組みを提供する会社も買収しました。Supadüの仕組みを使うと、簡単に出版社の自社サイトと販売書店が立ち上げられ、いわゆる直販が可能になるので、顧客情報を含めた販売情報を次のマーケティングへ生かしていくようなこともできます。

エンジニアがより大きく新しいチャレンジができる場所

──ぜひ、一緒に働きたいと思える人材の具体的なイメージがあれば伺わせてください。

沓名:メディアドゥでは、エンジニアからも課題に対する提案や解決に向けた積極的な活動を期待していますし、それを受け入れる環境が整っています。SIerで培われてきた提案力を活用して自身のアイディアでプロジェクトを推進したい、あるいはスタートアップ企業のCTOを経てより大きな組織の課題解決にチャレンジしていきたい、といったマインドの方であれば、より大きなチャレンジができる場所だと考えています。

重要なのは自走力のあるエンジニアですね。自ら課題を探し、課題に対してどう対処すべきかを組み立て、提案し、推進していく。こういったことがメンバーごとのレベルでも実現できていくと、組織的な力も当然上がっていくでしょう。最終的には各メンバーが同様の課題発見力と解決力を身につけ、問題の共通認識を持ち、スピード感を持って対応できる状態にしていきたいです。

一人ひとりが経営課題やお客様の課題を見つめて、打ち手を施せるようになることで、自分が仕事をしている意味が理解でき、より達成感を得られるはず。そういった意欲のある方々に来ていただけると、実りが多いのではないかと思います。

──メディアドゥは国内出版社にも強いパイプを持ち、さらには子会社として出版社やデジタルコンテンツ系の企業、それらを支えるシステム企業も有している。「出版」という軸で何かを興していこうとするなら、上流から下流まで全てが見られるような良い立ち位置にいるのだと感じます。

沓名:おっしゃる通りですね。ソリューションの幅を広げて質を高め、われわれが貢献できる範囲の度合いを高めていきたいです。目標に合わせていかにエンジニア組織を成長させられるか。積極的なチャレンジがより重要になるフェーズだと考えています。

(文・写真:長谷川賢人)