Tech Do | メディアドゥの技術ブログ 

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電子書籍技術の歴史的瞬間に立ち会える - VPoE川田のメッセージ

メディアドゥのVPoEである川田

メディアドゥでは、会社全体としての大きな方向性や情報をエンジニア組織横断で共有する、「エンジニア総会」というイベントを毎月開催してます。2023年1月の会では、VPoEの川田 寛により、電子書籍フォーマットの標準技術とその動向について語られました。

電子書籍の標準技術に進展あり

ここ最近の大きなトピックのひとつとして、電子書籍フォーマット「EPUB」の動向が挙げられ、私自身も注視しています。

EPUBは世界の電子書籍を支える根幹の技術で、私たちが普段楽しんでいる漫画アプリや電子書籍アプリといったサービスの裏側を支えています。電子書籍を端末へ配信するために作られたものですが、実態としては電子書籍の流通(出版業界では「取次」と呼んでいます)で使われている共通フォーマットのような位置づけにもなっており、その影響範囲はかなり大きいと言えるでしょう。

同技術の標準化をすすめているW3Cという団体は、仕様を何段階かのステップに分けて徐々に工業規格のような正式仕様へと移行させていきます。最初に草案(WD: Working Draft)が作られ、その仕様を元にさまざまなベンダーから実装が進められ、課題を改善し、安定性が確認された上で、最終フェーズとしてW3C勧告(REC: W3C Recommendation)に至ります。ここまで最低でも数年は要し、簡単には完了へと至りません。

しかし、現在標準化をすすめているEPUBのバージョン3.3は、近々W3C勧告化される可能性が高いとのこと。まさに、歴史的瞬間を迎えようとしています。

図: W3C勧告の流れ

電子書籍の世界標準に日本の出版社が関わっている

EPUBの標準化をすすめてきたW3C内のグループ「EPUB Working Group」には、世界中の電子書店や電子書籍ビューアの開発ベンダー、出版社のキーマンが所属しています。メディアドゥも2018年からW3Cに加盟し、同グループの取り組みに貢献しています。

W3Cの多くのWorking Groupが日本国外のメンバーで占める一方で、EPUB Working Groupは日本国籍の技術者(高見 真也氏)が共同議長を務めており、メンバーにも多くの国産ベンダーや出版社が含まれています。日本の業界の意見を、きっちりと反映していける構造で組織されています。

これは凄いことだと、私は尊敬の気持ちを持ってみています。

日本人が海外のフォロワーになるのではなく、きっちりと主導権を持ってコミットし技術を生み出していけるというのは、インターネットが普及した今の時代になかなか成し得ないことです。プログラミング言語Rubyにしてもそうなのですが、こういう現場で前線に立てる技術者は本当に貴重で、限られた人にしかこの役割は担えないように思えます。

EPUB3.3がW3C勧告化された後に、次はどんなデジタルフォーマットが求められているでしょうか。

日本国内でも、ページという概念がない縦スクロールで表現する漫画や、音声を通じてコンテンツを楽しむという読書体験が市場を広げています。メディアドゥでは、DCA(Digital Content Assets)という資産性があるデジタルコンテンツの取り扱いもはじめています。

長年にわたり培われてきたコンテンツ作りの力を持つ出版社のプロたちは、これからも新たなデジタル表現に価値を見出していくのでしょう。そんな制作の現場のみなさんに対して、私たちに何ができるのでしょうか。そのことについて考える良い時期に差し掛かっているように思えます。